
衝動買い ー 憧れを手に
2025年7月
中古カメラ店でふと目に留まった一本のレンズ
EF16-35mm F2.8L USM(初代)
2001年発売のこのレンズ、当時はプロ御用達の高級ズームで、カメラを始めたばかりの自分にとっては、ただの“憧れ”でした。雑誌やインターネットのサイトで赤帯のLレンズを見ては、いつかは手に入れたいと思いながら、眺めていたのをよく覚えています。
あの頃は、まだデジタル一眼レフが珍しく、フィルムからデジタルへと移り変わる過渡期。
私は「ホームページ・ビルダー」を使って、初めて自分の写真サイトを作った年でもありました。上手いと思った写真を参考に、見様見真似で撮った拙い写真をアップし、掲示板で感想をもらう、パソコンが好きな人たちが集う時代でした。
当時、20mmくらいが広角レンズといわれ、16mmとなると超広角レンズの領域でした。EF16-35mm F2.8L USMはもちろん超広角ズームといわれ、16mmスタートの超広角とF2.8通しの明るさを両立した夢のズームでした。建築、報道、風景――どんなジャンルでも活躍できる万能レンズとして、憧れの象徴そのものでした。
そしていま。
あのとき高嶺の花だったレンズが、中古市場で4万円前後。
性能では現代のEFレンズ、ミラーレス用のRFレンズに及ばなくても、所有する満足感と撮りたいという気持ちを呼び起こす力は健在です。
気づけば、20年以上越しの“赤帯”を手にしていました。
EF16-35mm F2.8L USM 初代の概要
このレンズは、EF17-35mm F2.8L USMの後継として2001年に登場しました。
当時としては珍しい16mmスタートの広角ズームで、全域F2.8の明るさを誇る、まさに“プロ仕様”の一本。
非球面レンズ3枚(研削・レプリカ・GMo)とUDレンズ2枚を組み合わせ、高い描写力と低歪曲を両立していました。
開放F値 :F2.8通し
レンズ構成. :10群14枚
絞り羽根. :7枚
撮影距離範囲:0.28m〜∞
フィルター径:77mm
重量. :約600g
発売. :2001年
とはいえ、現代のレンズと比べると、周辺減光やゴーストが発生しやすく、場面によってはほんのり滲む光。しかしその“完璧でない描写”こそが、この時代のLレンズらしい魅力でもあります。そこが写り以上に、写真を撮る喜びそのものを思い出させてくれるのです。
外観と操作感
持った瞬間に感じるのは、やはり赤帯の存在感。
無印レンズとは違い、見た目だけで所有欲を刺激します。重量も600g前後で手持ち撮影でも無理のないバランス。
ズームリング、フォーカスリングの操作感も適度で、古いながらもLレンズの感があります。
ただ、レンズフードが大きくかなり目立つのが気になるので、普段はレンズフードを取り外して使っています。広角レンズはフードの影響が比較的少ないので、それほど問題はないでしょう。

角度を変えて

ミラーレスのEOS Rにマウントアダプターを経由して取り付けしてみました。
本体が小さいこともあり、こう見るとレンズが長く感じると思います。

写りの特徴
広角端16mm
開放では四隅の甘さや周辺流れが目立ちますが、F8~F11まで絞ると風景撮影でも実用的な描写になります。波や海岸線、空のグラデーションなどを広く取り込みたい風景では、16mmの超広角が大きな武器になります。
↓焦点16mm F5.6で撮影
下側の左右の落ち葉が流れているのがわかります

↓焦点16mm F5.6で撮影
レンズと被写体との角度や条件によって、写真のように周辺流れは気になりません。

望遠端35mm
中央はシャープで、海岸や丘陵の風景を切り取る際に十分な解像感があります。四隅は少し描写が甘くなっている感じがしますが、古い設計ながら、さすがLレンズと思わせる力があります。
↓焦点35mm F6.3で撮影
画像サイズを縮小しているので、細かい部分は多少なりとも劣化して見えますが、それでも遠景までしっかり解像しているのが分かります。
この距離感でここまで写れば、普段使いには十分すぎると思います。

ボケ表現
広角レンズなので、ボケを意識した撮影は比較的少ないかもしれません。試しに手前の葉っぱや花に寄って撮ってみると、最小F値がF2.8ということもあり、広角らしい背景をほどよく残したボケが楽しめます。
↓焦点16mm F2.8で撮影
緑の葉にピントを置いて、絞り開放で撮影しています。葉のまわりがふわっと溶けるようにボケてくれて、思った以上に雰囲気よく写りました。

↓焦点16mm F2.8で撮影
中望遠レンズのように大きくボケるわけではありませんが、最短撮影距離が28cmと短いので、思ったよりしっかりと背景がボケてくれます。

逆光耐性
逆光によるコントラストの低下はそれほど気にならないものの、ゴーストは出やすく、光の位置によっては、かなり目立ちます。
しかし、海面や夕日の光を画面に入れると、光が滲み幻想的な雰囲気を生むのが初代16-35mmの魅力です。オールドレンズほどではないものの、こういう完璧ではない部分が魅力です。
↓焦点35mm F10で撮影
太陽を中心に入れて撮ると、このように豪快なにゴーストが発生します。もちろん欠点といえば欠点なんですが、あえて“アクセント”として活かしてしまう撮り方も、初代16-35mmならではの楽しみ方かなと思います。

↓焦点16mm F13で撮影
ゴーストを出さないように角度を調整して撮る方法もありますが、今回はあえて“ほんのりゴーストが出る位置”を探して撮ってみました。
強い光が少し滲んでくれることで、意外と雰囲気のある一枚になります。

↓焦点35mm F8で撮影
こちらは同じ場面を、35mm域で撮ったカットです。中心部の上に、ほんのり赤い丸いゴーストが出ていますが、実際にはそれほど気になりません。逆光で人物が少し滲むことで、むしろ雰囲気を引き立ててくれました。
先程も書きましたが「完璧じゃない写り」はある意味、「雰囲気ある写り」という考えが当てはまるのかもしれません。

実写作例
海
↓焦点16mm F6.3で撮影
7月の夕暮れ時の海辺。厚い雲に覆われていたので、今日は太陽は出ないかなと半ばあきらめていたところ、日が沈む直前に雲の切れ間からふっと顔を出してくれました。
Lレンズならではのキレの良さ、ほどよい周辺減光のおかげで濃淡が強調され、ドラマチックな雰囲気で写ります。うした表現力を見ると、このレンズの魅力をあらためて実感します。

↓焦点16mm F8で撮影
波打ち際にいた2人を画面に入れて、絞りF8で撮影。広角16mmにして砂浜を手前に入れることで、被写体との遠近感を出しています。まるで記憶の中の映像を写真で再現しているかのような感じが気に入っています。

小樽望洋台:海の広がりと夕日
↓焦点16mm F5.6で撮影
小樽・望洋台から景色を俯瞰し、16mmで海の広がりを切り取りました。
この日はヨットレースをしていたようで、遠くにはヨットの集団が見えています。画像は縮小していますが、遠景までシャープで、風景撮影にも十分使えると感じます。

↓焦点16mm F13で撮影
太陽を入れながら、ゴーストが発生しないようにレンズの向きを調整して撮影しました。広角16mmともなると、人の目で見える範囲を超えて撮ることが出来るので、写真の面白さを実感出来る気がします。

夕暮れの小さな船置き場
↓焦点16mm F5.6で撮影
太陽を背に向けた夕暮れの船置き場。波が穏やかで、海面に空が映り込み、静寂さが漂う時間でした。2001年発売の旧型ですが、Lレンズらしい色乗りの良さのおかげで、何気ない場面でも写真の仕上がりをぐっと良くしてくれるので、表現の幅が広がります。

↓焦点35mm F5.6で撮影
16mmと比べると一気に画角が狭くなります。そのぶん、余計なものを思い切って切り落として、見せたいところだけに集中できるのが35mmの良さです。

美瑛の広大な風景
↓焦点16mm F6.3で撮影
広さを表現したいときは、利便性の高い24mmからスタートのズームレンズより、さらに広い16mmで撮ると、畑や丘陵を広く取り込みながら、空や雲も余裕をもった構図で撮ることが出来ます。ただし、広い範囲で撮れるのと引き換えに、かなり手前から写ってしまうので、撮影後に足元が写っていたり失敗することもあるので、注意が必要です(汗)

↓焦点16mm F4.5で撮影
日が沈む直前の、オレンジと青が混ざり合う美しい時間帯。左右いっぱいに広がる雲を一枚に入れたいとき、16mmの広角が本当に役立ちます。見たままの“空の広さ”を素直に写せるのが魅力です。

焦点16mmで撮影した写真
16mmで撮った写真を5枚ピックアップしました





焦点35mmで撮影した写真
16mmで撮った写真を5枚ピックアップしました。





後継機
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II型(2007年発売):周辺画質や逆光耐性が改善され、より使いやすくなった。
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III型(2016年発売):高画素機でも隅々まで解像する完成形。
比べれば初代は劣りますが、“完璧じゃない味”が残るのが魅力です。F2.8ではないですが、EF17-40mm F4L USMよりF2.8の明るさと16mmスタートのワイド感はやはり特別。
赤帯の信頼感と所有感は、サードパーティ製レンズにはない価値です。
ミラーレスでの使用感
ソニーα7S、α7R II、EOS 6D、EOS Rと、さまざまなボディで試しました。
高画素機では四隅の甘さやパープルフリンジが気になる場面もありますが、逆にその“クセ”が画に個性を与えてくれます。
その中でも最もバランスが良かったのがEOS 6D。適度な画素数と緩やかな描写がマッチし、古いLレンズ本来のキャラクターを一番自然に引き出してくれる組み合わせでした。
まとめ
EF16-35mm F2.8L USM 初代は、最新レンズと比べれば性能面では一歩譲ります。
しかしその“完璧ではない描写”こそが、光の揺らぎや被写体の表情をむしろ魅力的にし、自然や風景の奥行きを豊かにしてくれるのです。
そして何より、かつて憧れていた赤帯Lレンズをいま自分の手にできるという喜びは、スペック表だけでは語れない価値があります。
石狩の海、小樽の望洋台、埠頭の静かな港、美瑛の夕景
どの場所でも、このレンズは目で見えない部分の美しさを拾い上げ、思いもよらない写りを見せてくれる。撮るたびに驚くような新しい発見があるのは、このレンズならではの醍醐味です。
中古市場が充実している今こそ、20年越しの赤帯Lレンズを味わう絶好のタイミング。
最新レンズにはない“写真を撮る楽しさ”を、もう一度思い出させてくれる一本になるはずです。


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